10代から職業教育訓練徹底
「なぜ高校を辞めたの?」教師(55)は生徒(18)に尋ねた。
「授業についていけなかった」と打ち明ける。
デンマークでも学校を中退したり、不登校になったりする若者は
少なくない。そこで2004年に「若者教育カウンセリング」制度が
作られた。教師らの専門カウンセラーが、12ー25歳の若者を支援
・監督する。全国50カ所あるセンターには各地の学校から問題を抱
えた子の情報が寄せられる。カウンセラーは本人や家族と面接し、進
学相談や職業指導を行なう
「仕事に就ける能力を養うのが先決。実践的な能力を身につけてお
かないと社会にに出ても失業する恐れがある」。件の生徒は、助言を
受け、職業高校に入学することを決めた。
低い若年失業率
多くの先進国が若年失業問題に頭を悩ませる中、デンマークは優等
生だ。「25歳未満の失業率は1.2%」(国家労働市場局)。
好景気に支えられている面もあるが、若年層への教育投資が功を奏し
ているとの指摘は多い。
教育への公的投資額は国内総生産の約8.5%(04年、ユーロス
タット)と欧州連合平均の5.1%を大きく上回る。これは若者に限
らない。「労働者の29%が毎年、何らかの教育を受ける」(教育省
生涯学習局)と言うほど社会人教育が盛んだ。
「今年は部下の雇用管理について学びたい」。風力発電機の世界最
大手、ベスタスの人事担当ディレクター(40)はそう話す。
同社は年1回、全従業員が社内外で教育を受けられる制度を設けて
いる。社内大学で研修を受けたり大学の博士課程に進んだり、学ぶ内
容は個人の希望次第。「従業員の質を高めることが業績拡大につなが
る」という考えが徹底されている。
だが、疑問も浮かぶ。転職社会だけに従業員への教育投資がムダに
なる不安はないのか。日本企業では雇用期間の定めのない正社員に比
べ、非正規社員の教育機会は乏しい。
社員の価値向上
「とんでもない。挑戦したい社員に機会を与えるのは当然。価値を
高めて帰ってきてくれるかもしれない」と玩具メーカー、レゴの副社
長は言い切る。
この言葉を裏付けるのが、同社が07年に立ち上げた「未来の家」
という組織。約千人いる時間給の工場労働者に臨む働き方などを聞き
、必要な研修や配置転換をアレンジする。「転職したい」という要望
があれば、必要な能力を身につけるための夜間研修を紹介することも
ある。
実はレゴは1990年代末に業績が悪化。ここ10年で工場労働者
を二千人削減してきた。「苦しい時期を経て得た教訓は、社員教育が
会社の役目ということ。いつまた人員削減があるか分らない以上、会
社が社員の能力を引き上げるのは社会にとっても有益だ」。「未来の
家」の担当者(62)は力を込める。
「デンマークの労働者は守られている印象が強いかも知れないが、
実際は自助努力が不可欠。『売り込める自分』があるから失業しても
次の行動をとれる」と、デンマーク労働総同盟の担当者は強調する。
翻って日本はどうか。
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