大増員時代を迎えた弁護士業界。「センセイ」と呼ばれる弁護
士たちも生き残りをかけ、「マーケティング」に知恵を絞り始め
た。広告の方法を工夫したり、IT(情報技術)を駆使して割安
のサービスを提供したりと、取り組みは様々。「紹介待ち」から
「選ばれる事務所」への脱皮を目指す。
「依頼の8割はホームページを経由している」ー。自前の顧客
を持たずに昨春開所した弁護士は打ち明ける。メーカーの法務部
で働きながら弁護士資格を取得、外資系法律事務所に勤めた経験
を持つ。独立にあたって参考にしたのはマーケティングのノウハ
ウ本。30冊程読破し、効果的な広告文句の作り方やタウンペー
ジの活用の仕方を学んだ。
件の弁護士は「初年度から外資系時代の給料並みの利益を出し
た」と胸を張る。「まだ多くの弁護士がマーケティングについて
考えてない」とも言う。
弁護士専門のヘッドハンターは「この業界では『弁護士の最大
の顧客紹介者は先輩弁護士』と言われてきた」と解説する。弁護
士の広告が2000年に解禁されるまで、自ら顧客を開拓する発
想はほとんどなかった。大手法律事務所など一部の例外を除き、
市場開拓や顧客満足度の向上を目指す「マーケティング」の考え
方は、大半の弁護士にとって無縁だった。
しかし、今や弁護士事務所を訪れる前にインターネットで法律
知識を仕入れる時代。「弁護士が高みに立って、専門知識を振り
かざしても、顧客はなっとくしない」と指摘される。
07年度の司法試験合格者数は新旧試験合計で約2,100人。
政府計画では10年までに合格者数を毎年3,000人まで増やす。
その増員計画に日本弁護士連合会はペースダウンを求めている。
「競争激化で仕事が減る」という見方が背景にあるようだが、「
合格したとき、一生、普通の人より良い生活を続けられると思った
」(70年代に合格したある弁護士)という特権意識はもはや通用
しない。
ある法律事務所所長はこう言う。従来の法律事務所を「高級料亭」
に例える。「金持ちやコネのある人しか利用できず、食べた後に多
額の請求がくる」という意味だ。01年に開所。個人の債権整理や
医療過誤を得意とし、08年12月期の売上高は約90億円を見込
む。経営効率化による「価格破壊」が急成長を支える。広告とコー
ルセンターを使い全国から大量の案件を受注。弁護士の右腕として
働く「パラリーガル」は約250人、ITシステムには10億円を
投じた。
利幅の薄い個人相手の法律サービスに商機を見出したというわけだ。
競争が激しくなるなか、新たに狙うのは中小企業などを対象にした
割安の総合法務サービスだ。個人相手のイメージが強い今の事務所名
を近く変更してブランド戦略を練り直すという。「確かなシステムを
築けば、多くの弁護士が敬遠していた分野が宝の山に化ける。やり方
次第で仕事は増える」と持論を展開する。
紹介のない「一見客」を避ける弁護士が今もいる。一方で、弁護士
紹介サイトに参加する弁護士も増えている。依頼案件について弁護士
が見積もり価格を提示、依頼者は価格を比較できる仕組み。大競争時
代の到来を意識する若手弁護士らを中心に約880人が参加、毎月
50〜100人のペースで増えている。仕事ぶりへの評価を依頼者が
書き込むこともできる。来春をメドに、参加弁護士のランキングを
始めるという。
弁護士法は「弁護士は社会正義を実現することを使命とする」と
規定。弁護士マーケティングを利益追求に重きを置く一般企業のそれ
と同一に語ることはできない。例えば、国選弁護など刑事司法の分野
はビジネスの論理だけでは成立しない。
ただ、東大の教授は『弁護士はこうあるべきだ』という固定観念か
ら抜け出せない結果、国民の不利益につながっている例は少なくない」
と指摘する。顧客の視点に立ったサービス産業へ脱皮することは、
「社会正義」にもかなっているはずだ。
【引用:日経新聞】